2010年12月19日

珊瑚事件ふたたび(その7)

この事件、私は強い怒りを感じている。
倫理、倫理と叫んで、それで何か良いことをやっていると思い込んでいる者達の厭らしさを、醜さを感じるからです。そして、この手の者達がよくやることでもあるのですが、人倫に悖ると非難された側に具体的な根拠を持ち出されて反論されると、今度は議論のすり替えをやりだす。混合診療問題を持ち出したり、臨床試験の問題点を指摘するのが目的だとか。
(続)捏造報道の正当化・議論すり替えを図る朝日新聞(2010/12/06)
http://iryohodo.umin.jp/contents01.html#rinshoi1206

卑怯としか言いようがない。

10月15日に一面にデカデカと出した記事や社会面に書いた「患者出血「なぜ知らせぬ」 協力の病院、困惑」の記事、さらに社説の「研究者の良心が問われる」と、ナチスドイツの人体実験になぞらえてまで東大医科研や中村教授を非難した、そこからどこをどうやったら混合診療問題や臨床試験の問題点が浮き彫りになってくるのか?
議論のすり替え以外の何物でもない。

臨床試験や治験に問題点は当然ある。
しかし、この問題は難しい。我々医師でも理解することすら難しいし、ましてやその解決策などさっぱり分からない。朝日が言っているような「国家に一元化」などということで解決などしないだろうし、逆によけい悪くなりさえするかもしれない。

朝日が、臨床試験や治験の問題点を指摘したいというのなら、それをやればよい。現状はこれこれで、日本はこうなっており、世界はこうでと、詳しく解説し、複数の専門家の意見を載せ、その上で、こうやれば良いのではないかと、紙面を割いて主張すればよい。
それができるのならだけど、できるはずがないのです。
現状を、新聞読者に分かるように書くことさえも不可能と思います。新聞の全ページを使っても不可能だと思う。
治験対象者の人権を守ろうとか、そういうきれい事を並べて解決するような、そんな単純な問題じゃないのです。あの記事を書いた者達が、臨床試験や治験問題を理解しているとは思えないし、ましてやその解決策なども持ち合わせているとも思えない。だから、倫理、倫理とさけんでいるだけなのでしょう。

Yosyan先生が、この治験に関する考察をされています。
2010-11-13 治験のお話
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20101113
2010-11-15 もう一度、治験のお話
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20101115

癌ペプチドワクチンは、その研究者は、その有効性にかなり手応えを感じているようですが、本当に臨床で使えて、実際臨床上、目に見えて有効な効果を得られるようなものなのか、今のところは分からない。そんな現状であるだけに、莫大な資金と時間と人手をかけて臨床試験、治験をやるという製薬会社がないというのも容易に理解できる。だから、今はその研究者が手弁当のような形でほそぼそと臨床試験の初期の段階をやっている。
そういう現状のところに、国家に一元化し治験段階の厳密な方法論を適用しろなどとされたら、どうなるか。
誰も手をつけられない。少なくともこの日本では絶対に不可能でしょう。

「がんワクチンはプレリミナリーの段階」、国立がん研究センターでシンポ
http://www.m3.com/iryoIshin/article/128479/index.html?portalId=mailmag&mm=MD101118_CXX
-----(ここから引用)-----
 臨床試験と治験の乖離、オールジャパン体制が必要

 本シンポジウムでは、がんワクチン実用化に向けた制度の問題点についても取り上げられた。その一つは臨床試験と治験の間に乖離があること。国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科・造血幹細胞移植科の平家勇司氏は、「米国では一つのパッケージとして、 FDA(米医薬食品局)が関わり、臨床試験と治験がシームレスに進行する。一方、日本では臨床試験と治験が全く違うフレームで行われており、無駄な手間がある。第I、II相試験を臨床試験で、第II、III相試験を治験で、という形が理想だが、現状は臨床試験と治験が別々に管理されている」と指摘した。

 この点について、三重大学遺伝子・免疫細胞治療学分野教授の珠玖洋氏は、試験薬製造に関わる問題を強調。治験のためには試験薬を治験薬のGMPに沿って製造する必要があるが、通常の研究用のスケールの製造では数十万円から数百万円のコストで済むが、 GMP製造だと数千万円から数億円と大きく跳ね上がる。臨床試験から治験への移行を容易にするために、珠玖氏は「GMP製剤を研究者の手の届くところに置くことが重要」と述べた。

 さらに「今の制度を受け入れた上で、どうワクチン開発を促進していくか」(平家氏)という視点から、珠玖氏は、開発資金支援、共同利用施設の拠点構築、専門領域のコンサルティング提供、製薬企業との早期のアライアンス、の4点の充実を通して、オールジャパン体制の構築を訴えた。同様に平家氏も全国規模のがんワクチン探索的臨床研究支援基盤「がん免疫療法ネットワーク」を立ち上げ、研究者主体の臨床研究を支援し、企業治験を誘導する流れを作る必要があると意見を述べた。

 特許がなければ製剤化困難

 「No patent、No care」(特許がなければ病気を治せない)。この言葉を出して特許の重要性を指摘したのは、脳腫瘍や種々の固形がんに対するWT1ペプチドワクチンの臨床開発を進めている大阪大学大学院医学系研究科機能診断学教授の杉山治夫氏。杉山氏は「独占できる権利がないものに、リスクを取って企業は手を出さない。研究者として特許を取得すると製剤化の邪魔になると思っていたが、むしろ特許がなければ製剤化は難しい」と経験を踏まえて発言。また、WT1ペプチドワクチンの開発に関して、「1992年に基礎研究をスタート、2018年頃に製剤化が見込まれている。ここまで26年という時間を必要とする計算」と臨床開発の長い道のりを強調した。
-----(引用、終わり)-----

こんな現状であることは、朝日も分かっているはずです。
にもかかわらず、なぜあんな記事を書いたのか?

癌の免疫療法については、他に重大な、そして大きな問題がある。
卵巣がん体験者の会スマイリー代表 片木美穂さんも指摘している「イチャモン免疫療法」の方が、はるかに重大問題のはずです。多くが臨床試験と称してやっているが、もちろん東大医科研がやっているようなきちんとした臨床試験ではない。いや臨床試験とさえ呼ぶのがおこがましいような、ただの詐欺行為でしかないのが多いと思う。
その問題を記事にした方が、はるかに臨床試験や治験の問題点を指摘することになったはず。
なぜこれをせず東大医科研や中村教授を持ち出したのか?

陰謀論に傾きそうになってしまう。
朝日新聞に悪意を、それも故意の悪意があったのではないかという陰謀論に。
posted by machiisha at 12:13
"珊瑚事件ふたたび(その7)"へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。