平成19年7月20日、福島県立大野病院事件の第6回公判が7月20日開かれ、担当産科医の刑事訴追の原因を作った検察側鑑定書を書いた田中憲一・新潟大医学部産科婦人科学教室教授の証人尋問が行われました。
ロハス・メディカルのブログ
福島県立大野病院事件第六回公判(1)
http://lohasmedical.jp/blog/2007/07/post_757.php
福島県立大野病院事件第六回公判(2)
http://lohasmedical.jp/blog/2007/07/post_759.php
日経メディカル
福島・大野病院事件の第6回公判が開催
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200707/503830.html
なぜこのような医療事故(医師の過失などなかった可能性が高く、さらに言えば事故でさえなかった可能性もある、病死も事故としないかぎり)に警察、検察が介入してきて刑事訴追までしたのか、その理由がこの証人尋問で明らかにされる、、、、はずであった。
ところが、この証人尋問で明らかになったことは、まさに「結果が悪ければ、その判断も誤りとして、すべてを刑事事件として扱って」いる(弁護人のコメント)という無茶苦茶な事実です。
これでは、医師は困難な症例を扱うなということになる。予後の悪い症例は避けよ、もし結果が悪ければ業務上過失致傷や致死罪で逮捕され裁判にかけれるよというこの事実です。理不尽としか言いようがないのですが、それがこの日本の司法の現実なのかもしれません。
日経メディカルの記事がよくまとまっています。
検察側鑑定書には次のようなことが書かれていた。
-----(ここから引用、日経メディカル)-----
(1)死亡原因は心室細動による心停止であり、帝王切開時の胎盤剥離により大量出血し、循環不全に陥ったことが心室細動の原因である、
(2)術前の超音波検査で、癒着胎盤を疑うことができた、
(3)輸血など術前事前の準備も不十分、
(4)術中に癒着胎盤を認めたら、無理に剥離をせず、子宮摘出に切り替えるべきだった
-----(引用、終わり)-----
(1)は争ってもしかたがないと思います。大量出血したことは事実です。心室細動が起こったことも、たぶん事実でしょう。
ただし、大量出血から、なぜ心室細動が起こったのかは、追求すれば藪の中に入るでしょう。これが医学、医療の限界ですのでしかたない。
しかし、弁護側は(2)、(3)、(4)には同意できないと思います。私もそう思う。
最大の問題は、この鑑定書を書き、今回証言した教授というのが周産期医療の専門医ではないという事実です。
-----(ここから引用、日経メディカル)-----
弁護側が最も問題視するのは、同教授の専門は婦人科腫瘍であり、周産期医療が専門ではない点だ。前置胎盤で癒着胎盤症例の手術を術者として担当した経験はない。この点は本人も認めており、警察から鑑定依頼を受けた際、「周産期医療の専門医ではなく、一般の産婦人科医の知識で書くが、それでいいかと警察に確認した」という。
-----(引用、終わり)-----
-----(ここから引用、ロハス・メディカル)-----
検事 産科婦人科には専門分野が4つあるそうですね。
田中教授 はい。
検事 4つとは何ですか。
田中教授 周産期、腫瘍、生殖、婦人科内分泌です。
検事 証人のご専門は何ですか。
田中教授 腫瘍です。
-----(引用、終わり)-----
この教授、癒着胎盤症例を担当したことがあるのは、手術助手としてついた1例のみなのだそうです。
ですから、癒着胎盤のエコー検査もしたこともないし、術中、どういう状態であれば「無理に剥離をせず、子宮摘出に切り替えるべき」なのかも知らない。「切り替えるべき」と鑑定書に書いたのは、教科書を読んでなのだそうです。
-----(ここから引用、ロハス・メディカル)-----
弁護人 (田中教授自身が実際には)癒着胎盤のエコーを一度も見たことがないのに、どうしてその判断に誤りがないと言えるのですか。
田中教授 私の判断が必ず正しいとは思っておりません。ただ診療はしておりませんけれど、日常的に疑って検査しなさいと若い人に申しております。
-----(引用、終わり)-----
-----(ここから引用、ロハス・メディカル)-----
弁護人 剥離が困難なほど胎盤が癒着しているかどうかというのは、施術中にはなかなか判定できないものではありませんか。
田中教授 そうでしょう。
弁護人 であれば、それは術者の判断に委ねられているのが、臨床の現場ではありませんか。
田中教授 そうです。
弁護人 「剥離を中断して子宮摘出にうつるべきとされている」という表現が鑑定書にありますが、これは文献からの引用ですか。
田中教授 文献を参考にした私の文章です。
弁護人 「止血操作するとされている」とありますが、その際に胎盤剥離を中断すべきですか。
田中教授 ケース・バイ・ケースだと思います。
弁護人 ケース・バイ・ケースの判断は誰が下すのですか。
田中教授 術者だと思います。
弁護人 本件でいえば加藤医師ですか。
田中教授 そうです。
-----(引用、終わり)-----
こんな鑑定医の鑑定書、証言に意味があるのだろうかと、私は強く思います。
で、弁護側は、周産期医療の専門医に鑑定を依頼しているだそうです。
-----(ここから引用、ロハス・メディカル)-----
弁護人 証人が周産期分野で信頼をおく方はどなたですか。
田中教授 名前を挙げるのですか。
弁護人 はい。
田中教授 東北大学の岡村先生、福島県立医大の佐藤先生、北里大の海野先生、昭和大の岡井先生、宮崎大の池ノ上先生、それから名誉教授になってしまいますが大阪大の〓先生と九州大の〓先生(メモ不完全)です。
弁護人 本件はそのような方たちが鑑定書を書くべきだったと思いませんか。
田中教授 思います。
弁護人 今お名前の出た岡村先生と池ノ上先生については弁護側の依頼で鑑定書を書いていることをご存じですか。
田中教授 知りません。
-----(引用、終わり)-----
この教授には、矜恃というのがないのかとさえ感じました。
しかし、こんな鑑定を書き、こんな恥ずかしい証言をする教授の矜恃などどうでもいい。
問題は、証人も言っている「ケースバイケース」という臨床現場における専門医(被告医師は産科専門医、それも臨床経験はこの教授よりはるかに多い)のその時々の判断さえも、結果が悪ければ業務上過失致傷や致死罪で逮捕、裁判にかけられるという不合理極まりない現実です。
この裁判は、日本の医療を破壊している。
2007年07月22日
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