毎日新聞でも、さすがにあの捏造記事には後ろめたいところがあったのでしょうか、訂正記事を出しています。ただし、記者の目とかいうコラムのような記事でです。
これもあえて全文引用します。
あまりにも人をバカにしたような記事です。
-----(ここから引用)-----
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20061026ddm004070125000c.html
記者の目:「次の実香さん」出さぬように=青木絵美(奈良支局)
◇「人と予算」伴った対策を--医師だけを問責するな
奈良県大淀町立大淀病院で今年8月8日、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった高崎実香さん(32)が、19病院から搬送を断られた後、大阪府吹田市の国立循環器病センターで男児を出産し、8日後に亡くなった。私は取材を通じ、出産前後の医療システムについて考えさせられた。「財政難」を理由にその整備を怠ってきた奈良県と、深刻な医師不足で激務を強いられている医療現場双方が、「次の実香さん」を出さないよう、今こそ「人と予算」の伴った対策をとるべきだと言いたい。
取材は8月中旬、高崎さん一家の所在も分からない中で始まった。産科担当医は取材拒否。容体の変化などを大淀病院事務局長に尋ねても、「医師から聞いていない。確認できない」。満床を理由に受け入れを断った県立医科大学付属病院(同県橿原市)も個人情報を盾に「一切答えられない」の一点張りだった。
搬送先探しが難航した背景は根深い。取材を進めると、緊急かつ危険な妊婦を処置できる「総合周産期母子医療センター」は8県(秋田、山形、岐阜、奈良、佐賀、宮崎、長崎、鹿児島)で未整備だった。危険な母体を大阪府などに送る奈良の県外依存は、ここ数年3~4人に1人の割合で推移する。県医務課の釈明は、「看護師不足や財政難がある」。ただ、新生児集中治療室(NICU)が40床あることを挙げ「この病床数は大都市を除いて多い」と、整備を急ぐ構えは感じられなかった。
「だったら、なぜ妊婦は県外に送られたのか」「遺族はこの現実をどう思うか」。実香さんの遺族にたどり着けたのは10月だった。義父の憲治さん(52)は当初、「実香ちゃんの死を汚す結果にはしたくない」と、取材への不安を口にした。「県内の実態を改善させるよう継続的に取材する」と伝えると、憲治さんの話は5時間以上に及んだ。
実香さんは頭痛を訴えた直後に意識不明に陥った。家族は脳の異状を疑い「CT(コンピューター断層撮影)を」と主治医にすがったが、分娩中にけいれんを起こす子癇(しかん)の判断は変わらず、搬送先探しが優先された。結局、死因は脳内出血。「担当の先生は、息子(実香さんの夫)も取り上げてくれた。『親子でお世話になれるな』と喜んでいた。病院の説明があったとき、事務局長に『誰のために働いてる』と聞いたら『町、病院のため』と答えたよ」。憲治さんの言葉には、信頼する医師の下で起きた事態へのやりきれなさがあふれていた。
その取材から3日後、実香さんの実父母、夫の晋輔さん(24)にも話を聞いた。「脳内出血の処置を受けているのに、母乳がたまっているのか胸が張ってね……」。意識のない中、実香さんは母であろうとしたのだ。その後、遺影の実香さんと、生後2カ月で愛くるしい笑顔の長男奏太(そうた)ちゃんに対面した。一家は考えた末、取材が殺到するのを「覚悟してます」と、実名と写真の掲載に同意した。
報道以降、多数のファクスやメールが届いている。「医師の能力不足が事態を招いた印象を与え、一方的だ。医療現場の荒廃を助長する」という医師の声も少なくない。だが、記事化が必要だと思った一番の理由は、医師個人を問題にするのではなく、緊急かつ高度な治療が可能な病院に搬送するシステムが機能しない現状を、行政も医師も、そして私たちも直視すべきだと思ったからだ。居住地域によって、助かる命と失われる命があってはならない。
NICUに9床を持つ県立奈良病院(奈良市)では、緊急処置の必要な妊婦受け入れに対応できるよう、正常分娩の妊婦を開業医に移す自助努力を重ねてきた。また、今回の問題を受け、県医師会の産婦人科医会も母体を産科以外で受け入れるなどの対策を打ち出した。医師の研修制度改正や産科医不足から、県内でも過去2年間で3病院が分娩を取りやめるなど影響は深刻だが、可能な限り、知恵を絞らねばならないと思う。
一方、県は医師会の対策をなぞるように、県内の民間2病院へ搬送受け入れを要請。だが、これは本来のセンター整備の遅れを補うに過ぎない。現時点で県は、人員確保を含めた体制作りを09年度中としているが、前倒しすることも検討すべきだろう。
初めて大淀病院に行った時、私は待合室で2カ月先まで分娩の予約が埋まっているとの張り紙を見た。「地域の妊婦がこの病院と医師を信じ、通っている」。憲治さんは「やがては実香ちゃんの死に意味があったと思いたい」と訴えた。失われた実香さんの命を見つめ、医療従事者、行政は同じ過ちを繰り返してはならない。
-----(ここまで引用)-----
何が「医師だけを問責するな」だ?
この事件は、本来は奈良県の周産期医療の貧困がもたらしたものです。そしてその根底には、国の、現政権による低医療費政策が横たわっている。奈良県のような人口の少ないところが、高度な周産期医療システムを構築できるはずがない。作ろうにも、現在の低医療費政策の元では巨大な赤字になる。それは税金で補わざるをえませんが、今のように地方公共団体が赤字で苦労している時代にそれも難しい(しかし、県民がそれに理解をしてくれるのならできないことはないですが)。そうなると、こういうハイリスクな症例には、奈良県のようなところでは対処できない。
こういうことを、最初からきちんと一番上に書いておけばいいのに、遺族の泣き崩れる図のような絵を全面に出して感情に訴えかけ、「6時間放置」だの「CTを撮らなかった」、医療ミスだなどとセンセーショナルにかき立てたのは、いったい誰なのか。今になっては明らかに事実と反する記事を書いたのは、いったい誰なのか。
それを今更「医師だけを問責するな」だとは、どういう神経をしているのか理解に苦しむ。
マスコミ関係者の傍若無人さというのを、マスコミの被害に遭った人が常に言っていますが、いつまでたっても少しも改まらない。
それどころか、それを自慢げに書いているのだから何をか況やです。
このコラム、「放置」の「ほ」の字も書いてない。「CTを撮らなかった」話も、最初の「当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。」から「家族は脳の異状を疑い「CT(コンピューター断層撮影)を」と主治医にすがったが、分娩中にけいれんを起こす子癇(しかん)の判断は変わらず」と、家族がCTを撮るよう要求したことに変わっている。CTを撮るよう主張した内科医ってのはどこにいったのだ?
この記者は、家族が手術をしろと言ったら医師は手術をしないといけないとでも言うのでしょうか?
手術とCTの様な検査は別だと言われるかもしれませんが、この症例のような場合、CTを撮ることは手術をすることと同じくらいのリスクを伴っているのです。その臨床判断を家族がすべきだと毎日の記者は言っていることになります。その理不尽さを分かっていただけるでしょうか?
私がこの記者を一番最低だと思うのは、最後のこれです。
「失われた実香さんの命を見つめ、医療従事者、行政は同じ過ちを繰り返してはならない。」
さんざん人を煽り立てておきながら、今度は自分だけ後ろに引こうとしている、逃げだそうとしている。
まさに偽善者の典型。
ただ、こういう偽善者に大衆というのは乗せられやすい。私がこの毎日の記事をおかしいと気づいたのは、記事を書いた者たちよりも医療についてよく知る立場にいたからです。たぶん、他の分野においては、私がこの毎日新聞の記者のような偽善者に騙される方になっていた可能性があります。いや、大いにあるし、今までそうであったかもしれません。
これからは、センセーショナルに新聞やテレビが何か声高に叫んでいたら、偽善者が大衆を騙そうとしていると疑ってかからないといけない。
この毎日の記事から得られる教訓はこれくらいのものでしょうか。
大淀病院の産科部長は、いわゆる一人医長と言われるものです。病院に一人しか産科医がおらず、大学病院から派遣されてくる医師の応援を受けながらがんばってきた人です。それも60歳を越えているやに聞いています。1月に20から30の分娩をこなし、さらに7、8例の手術までしていたそうです。当直も(実際は当直ではなく夜勤をしていたはずです、これは明らかな労働基準法違反でさえある)週に3回ほどこなしていたとのことですから、どれほど大変な重労働だったかはかりしれません。
それほどやっても、一度、こういう不幸な結果なことが起こったら、これほど理不尽な仕打ちを受けるわけです。
私は、そこまでがんばらなくていい、あなたは精一杯やったと声をかけてあげたい。
もっと休みなさい、もっと仕事をセーブしなさないと、言ってあげたい。
しかし、目の前に、産婦が次々とやってくる、それをほっとくわけにはいかないということで、こういう激務になっていたのでしょう。他に産科医がいないのだからと、誠実であればあるだけこういうことになってしまう。それも分かるのですが、、、
奈良県の産科医療は、これで崩壊するでしょう。
少なくとも南部一帯は。
2006年10月30日
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