2006年10月18日

またか!>奈良県の妊産婦死亡事件

奈良県で分娩中に脳出血をおこし、受け入れ先病院を探したが見つからず、19件目でやっと国立循環器病センター(大阪にあって60キロも離れているそうです)が受け入れ(よく受け入れてくれたものです)、脳内出血と帝王切開の手術を受けたが、1週間後に死亡したという事件。昨日くらいから、ニュースやワイドショーで大騒ぎになっています(例によって、頓珍漢としか言いようのないコメントも多い)。
これに警察が介入してくるようです。
これでまた医療崩壊のスピードが速まることになる。

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題
2006年10月18日
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200610170083.html
>奈良県大淀町の町立大淀病院で妊婦(32)が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、大阪府内の病院に搬送後、脳内出血で死亡した問題で、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院は「死亡にいたるミスがあった」と認めている。県警は同病院関係者から慎重に当時の治療内容などについて聴く方針。

「死亡に至るミス」ですが、私に言わせればそれは、いわゆるミスではない。後付けの論理です。うまく行かなかった事例を後から見れば、こうしておけばよかったかもしれないという「ミス」であって、刑事はもちろん民事でさえあれこれ言われるようなミスではない。

>17日に会見した同病院は、ミスの内容として、(1)主治医が、妊婦の意識喪失を失神と判断した(2)妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と判断し、脳内出血を見抜けなかった(3)そのためCT(コンピューター断層撮影)を撮らず、脳外科の治療を優先しなかった――などを挙げた。

脳内出血があったと分かった時点から見れば、失神と判断したのはミスだったし、子癇と判断したのもミスだったというに過ぎない。
また、CTをとるべきかどうかの判断も難しい。分娩中で、意識障害がある、それも深夜です。もしかして、CT中に呼吸停止や心停止になったらどうするんでしょうか?
そういう緊急事態のCT検査でも大変なのに、さらに分娩中ですよ、いったいどうしろっていうんだと言いたくなります。

m3.comでも議論になっています。
それによると、「妊婦や褥婦が意識喪失を呈したら、産婦人科医は先ず先に子癇発作を考え」るということで、子癇と考えたこと自体は間違いではないようです。
また、もしCTをとれたとして脳内出血だと分かっても、町立病院ではたして処置できたかどうか。脳外科医が一人常勤医としているようですが、その一人を深夜に呼び出して、緊急手術をしろということなのでしょうか?
こういうような症例は、産婦人科、脳外科、麻酔科医に小児科の医師が、それも複数いて、NICUの設備がないと対処できないそうです。
これを町立病院でしろというのは無理です。赤字を抱えて、経営改善しろとプレッシャーをかけられている公立病院でそんな赤字垂れ流しのことなどできるわけがない。
そういうところは、奈良県には県立医大しかないようで、その県立医大は受け入れを拒否した(満床とかいろいろ理由はあります、拒否したこと自体は非難できない)。これでは、その町立病院ではどうしようもない。
つまり、その町立病院でCTをとっていようがとっていまいが、結果は同じだったのです。

そこにまた警察です。
いいかげんにしろ、と言いたい。

それにワイドショーのいいかげんさにはあきれるばかりです。
今日(10月18日)の関テレで小倉さん(?)の番組に、伊藤なんとかという人が電話インタビューを受けていた。
医療ジャーナリスト、写真家という肩書きでした。
なんじゃこれと驚いた。
写真家というのが職業で、医療ジャーナリストと自称しているんでしょう。
そんな人にコメントさせるってどういうこと?
専門家の話を聞くというのなら、産科や脳外科、救急の臨床をやっている医師とか地域の医療行政に携わっている役人とかを選ぶべきじゃないですか?

それが写真家って、いったいこの国のジャーナリズムはどうなっているんだろう?
posted by machiisha at 12:22| Comment(2) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あぜんとする記事!!

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20061018k0000e040059000c.html
>また満床などを理由に妊婦の受け入れを拒んだ病院の対応についても、刑事責任が問えるどうかを検討する。

信じられない!!
こんなことがまかり通るのか、、、
Posted by 院長 at 2006年10月18日 15:58
ブログが沸騰している、この事件に。

このブログの主張に私は全く同感です。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061018

まさに「その日が来た」のです。
医療の焼け野原化、そのポイントオブノーリターンとなる事件です。
Posted by 院長 at 2006年10月18日 19:25
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック